記事内容
DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)[1]に対する社会の認知度は高まり、産業界ではDX取組みの必要性が広く浸透しつつあると思われます。
当サイトにおいても、過去のコラムでDXについての整理をおこないました。
今回は、DXの実現に不可欠な人材面にフォーカスした内容になります。
DX推進における人材の重要性
企業が競争上の優位性を確立する為に、著しく進化するデータ・デジタル技術を活用して、常に変化する社会や顧客の課題を捉え、DXの実現に取組む動きが加速しています。
しかしながら、「多くの日本企業は欧米に比べて、DXの取組みに遅れをとっている」とする報告があります。その大きな要因の一つとして、DXの素養や専門性を持った人材が不足していることが挙げられています。
独立行政法人情報処理推進機構(以降「IPA」)による「DX白書2023」から引用します。
「DX白書2023」
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
(2024/10/8 引用)
第1部(総論)第4章「デジタル時代の人材」における調査結果の主なポイントを挙げます。
- DXを推進する人材が充足していると回答した国内企業は 10.9%(米国 73.4%)
- 人材像を「設定をしていない」と回答した国内企業の割合が 40%(米国 2.7%)
日本企業と米国企業との間に非常に大きな開きが見られます。そして、この章のまとめとして以下のように報告しています。
「全般的に『DXの推進において人材が課題』という状況が顕著にあらわれた結果となっており、取組みの加速は急務であると考える」
こうした課題を解決しつつ、DXを実現する為には、どのようなことが必要になるでしょうか。
企業がDXを実現するには、全員が(DXに理解・関心を持ち)DX推進を自分事と捉え、企業全体として変革への受容性を高める必要があります。その為には、全員がDXに関するリテラシー(知識を理解して活用する能力)を身につける必要があります。
また、変革への受容性を高めた上で、実際に企業がDX戦略を推進するには、関連する専門性を持った人材が活躍することが重要になります。その為には、専門性を持った人材の確保・育成が必要です。
DX推進における人材の重要性について、実感して頂けたでしょうか。
「デジタルスキル標準」とは
経済産業省とIPAでは、DX推進における人材の重要性を踏まえ、個人の学習や企業の人材確保・育成の指針を策定しました。2022年12月に「デジタルスキル標準(DSS)」ver.1.0として取りまとめられています。(2024年7月時点でver.1.2まで改訂)
「デジタルスキル標準(DSS)」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/index.html
(2024/10/8 引用)
デジタルスキル標準は、「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」の2つの標準で構成されています。
デジタルスキル標準で対象とする人材は、デジタル技術を活用して競争力を向上させる企業等に所属する人材を想定しています。
[1]DXリテラシー標準
全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルを定義しています。次のようなスキル・学習項目で構成されています。
- マインド・スタンス
- Why(DXの背景)
- What(DXで活用されるデータ・技術)
- How(データ・技術の利活用)
DXリテラシー標準は、ビジネスパーソン全体がDXに関するリテラシーを身につける為の指針となり、企業全体として変革への受容性を高めることに役立ちます。
[2]DX推進スキル標準
DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルを定義しています。また、DXを推進する主な人材として5つの人材類型を定義しています。
- ビジネスアーキテクト
- デザイナー
- データサイエンティスト
- ソフトウェアエンジニア
- サイバーセキュリティ
各類型間では、他の類型との繋がりを積極的に構築した上で、他類型の巻き込みや他類型への手助けを行うことが重要とされています。
DX推進スキル標準は、企業がDXを推進する専門性を持った人材を確保・育成する為の指針となり、DX推進において専門性を持った人材が活躍することに役立ちます。
デジタルスキル標準の活用イメージ
企業がDXを推進する為には、全社的なDXの方向性を基に人材確保・育成の取組みを実行し、それを通して実現できたことを踏まえ方向性を見直していくような循環が必要となります。
デジタルスキル標準は、企業がDXを推進するなかで、人材確保・育成の取組みの実行を後押しします。DXリテラシー標準とDX推進スキル標準を活用することで、次のような具体的取組みの実行に役立ちます。
- 全社的な底上げ(DXの自分事化)
- DXを推進する人材の要件の明確化
- 人材の確保・育成施策検討
一方で、活用にあたっては留意点もあります。
[1]デジタルスキル標準の汎用性
デジタルスキル標準で扱う知識やスキルは、共通的な指標とする狙いから汎用性を持たせた表現となっており、活用にあたっては、各企業・組織の属する産業や自らの事業の方向性に合わせることが求められます。
[2]ビジョンや戦略ありき
DXで実現したいビジョンやDXの推進に向けた戦略を描いた上で、DX推進スキル標準を参考にすることで、自社・組織に必要な人材が明確になり、確保や育成の取組みを進め易くなります。しかし、DX推進スキル標準から戦略を描こうとすることや、スキルを闇雲に身につければDXが進むというものではないことには留意が必要です。
[3]標準に挙がる全ての人材を揃えようとしてはいけない
DX推進スキル標準に示されているDX推進に必要な人材類型および役割は、企業がこれら全てを最初から揃えることは必須でなく、事業規模やDXの推進度合に応じて一部の役割から揃えていくことが想定されています。
[4]「DXは自分事」と捉えて活用すべき
DX推進スキル標準では、5つの類型の人材がコラボレーションしながらDXプロジェクトを動かしていくことが示されています。それは、どちらかがどちらかに指示をする、又は依頼する、といった形ではなく、様々な場面で二つ(又はそれ以上)の類型が協働関係を構築することを想定しています。
ここでの協働関係とは、「専門外のことは他の人材に任せる」といった「他人事」のスタンスではなく、「自分事」として自身の専門外のことも、プロジェクトで必要な知識やスキルであれば、身に付ける必要があることを示しています。
DXリテラシー標準も、ビジネスパーソンがDXを自分事として捉えた上で変革に向けて行動できるようになることを狙って策定されています。
指針があると効率的に良い結果が得られる
繰り返しになりますが、DXの実現に向けてビジョンや戦略を描いたとしても、それを実行するには必要十分な人材が居なくてはなりません。
そうした人材を揃えていくのに、一から手探りで取組むのは非常に大変なことです。デジタルスキル標準のような、指針として拠り所にできるものがあることで、効率的に良い結果に辿り着けることでしょう。
また、DX人材の確保・育成にあたっては、自社内のスタッフだけで取組めるケースばかりではなく、リクルートサービスや研修サービス等の外部サービスを利用するケースもあることでしょう。
そのようなケースでも、デジタルスキル標準を指針として活用し、提供されるサービスの妥当性を客観的に評価することで、最適な選択を行う助けになることでしょう。
新しい技術の登場や普及によるスキル変容への対応
DXを推進する人材は、新たに登場するインパクトのあるデジタル技術がもたらす変化を捉えることが重要です。そのため、デジタルスキル標準においても改訂の考え方が明記されています。
「新しい技術や産業構造の変化、政府方針等のDXに影響を及ぼす出来事に対し、短期・中長期的なインパクトの見通し、既存デジタルスキル標準との整合性、及び利用者への影響等を考慮し、全ビジネスパーソンが身に着けるべきスキルや、DXを推進する人材類型の役割や習得すべきスキルの標準を見直し続けていく」
そして、昨今の生成AIの急速な普及を踏まえ、2023年8月に「DXリテラシー標準」が改訂(ver.1.1として公開)されたのに続き、2024年7月に「DX推進スキル標準」が改訂(ver.1.2として公開)されました。
改訂のポイントにつきましては、IPAのサイトを引用しますので、ご確認ください。
「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-l.html
(2024/10/8 引用)
「DX推進スキル標準(DSS-P)概要」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-p.html
(2024/10/8 引用)
この記事のまとめ
- 多くの日本企業がDXの推進にあたり、DXの素養や専門性を持った人材を十分に確保できていない課題を抱えている
- 企業がDXを実現するには、企業全体として変革への受容性を高め、関連する専門性を持った人材が活躍することが重要
- デジタルスキル標準は、自社にとって必要な人材を把握し、そのような人材を確保・育成する取組みの実行を後押しする