記事内容
DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)[1]に対する社会の認知度は高まり、産業界ではDX取組みの必要性が広く浸透しつつあります。
当サイトにおいても、過去のコラムでDXについての整理を行いました。
一方で、現在は生成AIをはじめとするAI技術の急速な進化により、データとAIを活用した産業構造の変化が起きています。
今回は、DXの実現、そして新たに重要性を増しているAX(AIトランスフォーメーション)の推進に不可欠な人材面にフォーカスした内容になります。
DX推進における人材の重要性
企業が競争上の優位性を確立するために、著しく進化するデータ・デジタル技術を活用して、常に変化する社会や顧客の課題を捉え、DXの実現に取組む動きが加速しています。
しかしながら、「多くの日本企業は欧米に比べて、DXの取組みに遅れをとっている」とする報告があります。その大きな要因の一つとして、DXの素養や専門性を持った人材が不足していることが挙げられています。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による報告書「DX動向2025」から、調査結果の主なポイント引用します。
「DX動向2025」
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html
(2026/6/12 引用)
[1]DX推進人材の「量」の不足感
日本国内企業で人材が「大幅に不足している」「やや不足している」と回答した割合は85.1%に上ります。これに対し、米国では73.6%、ドイツでは52.5%の企業が「過不足はない」「やや過剰である」と回答しており、人材不足を深刻に感じているのは日本特有の状況と言えます。
[2]人材像の設定状況
人材像を「設定していない」と回答した国内企業の割合は43.5%です(米国 3.1%、ドイツ 5.7%)。また、DX推進に必要なスキルを「把握できていない」とする日本企業は57.1%(米国 5.4%、ドイツ 9.0%)に達しており、欧米諸国との間に非常に大きな開きが見られます。
「DX動向2025」では、こうした状況のまとめとして、以下のように報告しています。
「人材は慢性的に不足状態である。……必要なスキルやレベルの定義、人材のスペックの明確化ができておらず、それに伴って育成施策も講じられていない企業が多く(ある)」
こうした課題を解決しつつ、DXを実現するには、どのようなことが必要になるでしょうか。
企業がDXを実現するには、全員が(DXに理解・関心を持ち)DX推進を自分事と捉え、企業全体として変革への受容性を高める必要があります。そのためには、全員がDXに関するリテラシー(知識を理解して活用する能力)を身につける必要があります。
また、変革への受容性を高めた上で、実際に企業がDX戦略を推進するには、関連する専門性を持った人材が活躍することが重要になります。そのためには、「自社にとってどのような人材が必要か」という人材像の明確化と、それに基づいた人材の確保・育成が不可欠です。
DX推進における人材の重要性について、実感して頂けたでしょうか。
「デジタルスキル標準(DSS)」とは
経済産業省とIPAは、個人の学習や企業のトレーニングの指針として「デジタルスキル標準(DSS)」を策定しています。2022年12月の初版公開以降、技術革新に合わせて継続的な見直しが行われており、2026年4月には、AXの進展や組織変革の重要性に対応したバージョン2.0(DSSver.2.0)が公表されました。
「デジタルスキル標準(DSS)」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/index.html
(2026/6/12 引用)
デジタルスキル標準は、以下の2つの標準で構成されています。
- DXリテラシー標準(DSS-L):全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準
- DX推進スキル標準(DSS-P):DXを具体的に推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
[1]DXリテラシー標準
全てのビジネスパーソンが身につけるべき知識・スキルを定義しています。「DSSver.2.0」では、不確実性の高い時代において新たな価値を生み出すための「デザインマネジメント実践」が、重要なマインド・スタンスとして強調されています。
- マインド・スタンス(デザインマネジメント実践を含む)
- Why(DXの背景)
- What(DXで活用されるデータ・技術)
- How(データ・技術の利活用)
[2]DX推進スキル標準
DXを推進する人材の役割(類型)を定義しています。「DSSver.2.0」では、AI活用の鍵となるデータ整備を担う「データマネジメント」類型が新設され、以下の6つの人材類型となりました。
- ビジネスアーキテクト:ビジネスモデル変革を主導する役割(ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャーの3ロールに再定義)
- デザイナー:顧客視点での価値創造を担う役割(新たにコミュニケーションデザイナーを定義)
- データサイエンティスト:データ解析やAIシステムの構築を担う役割
- データマネジメント:データの安全性・信頼性の確保と流通の仕組み化を主導する役割
- ソフトウェアエンジニア:デジタル技術を活用した製品・サービスの実装を担う役割
- サイバーセキュリティ:デジタル環境におけるセキュリティリスク対策を担う役割
デジタルスキル標準の活用イメージ
企業がDXを推進するには、全社的な方向性に基づき、人材の確保・育成を実行し、結果を踏まえて方向性を見直す循環が必要です。デジタルスキル標準は、以下の取組みを後押しします。
- 全社的な底上げ(DXの自分事化)
- DXを推進する人材の要件の明確化
- 人材の確保・育成施策の検討
活用にあたっての留意点を挙げます。
[1]自社の事業の方向に合わせた具体化が必要
デジタルスキル標準で扱う知識やスキルは、共通的な指標とする狙いから汎用性を持たせた表現となっており、活用にあたっては、各企業・組織の属する産業や自らの事業の方向性に合わせることが求められます。
[2]ビジョンや戦略が先にあるべき
DXで実現したいビジョンやDXの推進に向けた戦略を描いた上で、DX推進スキル標準を参考にすることで、自社・組織に必要な人材が明確になり、確保や育成の取組みを進めやすくなります。しかし、DX推進スキル標準から戦略を描こうとすることや、スキルを闇雲に身につければDXが進むというものではないことには留意が必要です。
[3]全ての役割を最初から揃える必要はない
DX推進スキル標準に示されているDX推進に必要な人材類型および役割は、企業がこれら全てを最初から揃えることは必須でなく、事業規模やDXの推進度合に応じて一部の役割から揃えていくことが想定されています。
[4]「自分事」と捉えて活用すべき
DXリテラシー標準は、ビジネスパーソンがDXを「自分事」として捉えた上で変革に向けて行動できるように策定されています。DX推進スキル標準でも、各類型の人材が他の類型とのつながりを積極的に構築した上で、他類型の巻き込みや手助けを行うことが重要とされています。類型間の連携においては、「専門外のことは他の人材に任せる」といった「他人事」のスタンスではなく、「自分事」として自身の専門外のことも、必要な知識やスキルであれば身に付けるべきであることを示しています。
AX時代の到来とスキル変容への対応
DXを推進する人材は、新たに登場するインパクトのある技術がもたらす変化を捉えることが重要です。デジタルスキル標準においても、その時々の技術動向に応じた改訂の考え方が明記されています。
「DSSver.2.0 」へのメジャーアップデートでは、以下のポイントが強化されました。
- AX(AIトランスフォーメーション)の加速:AI活用の前提となるデータ整備を担う「データマネジメント」類型の追加と、共通スキルリストへの「AI実装・運用」「AIガバナンス」の拡充
- ビジネスモデル変革の重視:個別のプロジェクトにとどまらない変革を推進するため、ビジネスアーキテクト類型のロールが刷新
- デザインアプローチの全社浸透:全てのビジネスパーソンが持つべき素養として「デザインマネジメント実践スキル」が定義され、組織変革において関係者の共創を促すスキルを重視
指針があると効率的に良い結果が得られる
DXの実現に向けてビジョンや戦略を描いたとしても、それを実行するには必要十分な人材がいなくてはなりません。
そうした人材を揃えていくのに、一から手探りで取組むのは非常に大変なことです。デジタルスキル標準のような、指針として拠り所にできるものがあることで、効率的に良い結果に辿り着けることでしょう。
また、DX人材の確保・育成にあたっては、自社内のスタッフだけで取組めるケースばかりではなく、リクルートサービスや研修サービスなどの外部サービスを利用するケースもあることでしょう。
そのようなケースでも、デジタルスキル標準を指針として活用し、提供されるサービスの妥当性を客観的に評価することで、最適な選択を行う助けになることでしょう。
この記事のまとめ
- 多くの日本企業がDX・AXの推進にあたり、専門性を持った人材を十分に確保できていない課題を抱えている
- 企業がDXを実現するには、企業全体として変革への受容性を高め、関連する専門性を持った人材が活躍することが重要
- デジタルスキル標準は、自社にとって必要な人材を把握し、AX時代に対応した人材確保・育成を後押しする
