記事内容
デジタル社会における経営環境変化への対応
デジタル社会[1]の到来により、経営環境は今までより速く大きく変化しています。デジタル技術の進化により、効率化だけでなくイノベーションの実現が可能となり、AIやIoT、クラウド、ブロックチェーンなどの技術を活用することで、新たな市場や顧客を開拓できます。また、デジタルシフトは働き方改革やSDGsへの対応にも寄与します。
こうしたデジタル技術の進化を積極的に取り込み、組織全体でDX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)を推進することが、企業が経営環境の変化に対応し、競争力を維持し、新たな価値を創出し、持続的な成長を実現するために必要とされています。
当サイトにおいても、過去のコラムでDXについての整理をおこないました。
今回は、企業がDXを推進し、持続的な成長を実現するための包括的なフレームワークとして提示された経営手法である「デジタル経営」をご紹介します。
デジタル経営とは
ITコーディネータ協会(以降「ITCA」)によって策定された「ITコーディネータプロセスガイドライン Ver.4.0 ~デジタル経営推進プロセスガイドライン~」において提唱された経営手法です。
ITCAによるデジタル経営の定義を引用します。
「デジタル社会における経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたデータとITの利活用による経営の変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法」
どのような内容なのかは、先に触れたガイドライン資料を通してご紹介して行きます。
デジタル経営推進プロセスガイドラインとは
ITコーディネータプロセスガイドライン(以降「ITC-PGL」)第4版の副題にあたりますが、当コラム記事ではデジタル経営の推進にフォーカスして、「デジタル経営推進プロセスガイドライン」としてご紹介します。
ただ、先にITC-PGLについて触れておきます。元々、ITC-PGLは、ITコーディネータ[2]資格者の教科書に位置づけられるガイドライン資料でした。
しかしながら、ITC-PGLは改版を重ねる毎に「ITコーディネータの教科書」に留まらない、広く企業にとって参考となり得る内容に変容しました。
加えて、第4版(Ver.4.0)ではPDF版が無料でダウンロード可能となったことから、更に広く参照されることを期待して、今回ご紹介いたしました。(ガイドライン資料の入手については後述します)
デジタル経営推進プロセスガイドラインの特徴的な内容を列挙します。
- サイクルの概念をとり入れた反復型プロセス
- 企業の継続的成長を重視
- 価値の創造と実現を全面に
- 価値実現の支援機能を重視
- 登場人物の役割を明確に
- デジタル経営を成功に導く10の基本原則
当ガイドライン資料は、企業がデジタル経営を効果的に推進するための「実行基準(プロセス)」と「判断基準(基本原則)」を示したものと位置づけられていることから、「実行基準」と「判断基準」の観点からピックアップして要点をご説明します。
実行基準となるデジタル経営プロセス
実行基準として、デジタル経営で注力すべき重要な活動領域での「進め方(プロセス)」を示しているのが、「デジタル経営プロセス」です。
デジタル経営プロセスは、デジタル経営成長サイクル(C1)と価値実現サイクル(C2)の2つのサイクル、および共通的な実行能力を定義したデジタル経営共通基盤(CB)で構成されています。
2つのサイクルは、それぞれプロセスを内包しており、プロセスによってはさらに細分化されたアクティビティを含みます。プロセスまたはアクティビティには実際の「進め方」を示す具体的なタスクが定義されています。今回は全体概要のご紹介となりますので、詳細につきましては是非ガイドライン資料をご確認ください。
デジタル経営成長サイクル(C1)
経営環境の変化に対応し、変革のための戦略を策定・実行するサイクルです。策定した戦略は価値実現サイクル(C2)で実行され、成果がフィードバックされます。このフィードバックを基に戦略を見直し、次の変革に繋げます。これにより、経営環境の変化に迅速に対応し、デジタル経営マインドやガバナンスを向上させ、企業文化を醸成し、持続的成長を目指します。
価値実現サイクル(C2)
デジタル経営成長サイクル(C1)に基づき、顧客価値の実現と経営目標の達成を目指す一連の取り組みです。このサイクルは「デジタル経営実行計画(P3)」「IT開発・導入(P4)」「価値提供・運用(P5)」「提供価値検証(P6)」の4つのプロセスから成り、これらを繰り返し実行します。結果は「デジタル経営戦略(P2)」にフィードバックされ、次の戦略のインプットとなります。このサイクルは、戦略、開発、運用の連携を強化し、迅速な実行と評価を目指します。
デジタル経営共通基盤(CB)
デジタル経営共通基盤(CB)は、デジタル経営のサイクルを円滑に、継続的に回していくためのサイクル横断の共通アクティビティです。
判断基準となる基本原則
デジタル経営を実行する上で、課題や問題に直面した際、方向性を見失わないための判断基準が必要です。各サイクルや共通基盤のプロセスにおいて共通の10個の基本原則が整理されています。
[1]リーダーシップの原則
リーダーは「思い」や「方針」を明確に伝え、説明責任を果たし、自ら率先して行動し、結果に責任を持つことが重要です。
[2]イノベーションの原則
変化をチャンスと捉え、過去に囚われず、アイデアを発想し、実行するマインドとスキルを持つことが重要です。
[3]価値創造の原則
自社のビジョンから価値を設計し、デジタル技術と組み合わせて顧客価値を創造。新たなスキルと外部連携も重視します。
[4]デジタルシフトの原則
データとITの利活用を前提に、社員のデジタルリテラシーを向上させ、迅速にデジタル環境を整備することが重要です。
[5]全体最適の原則
個別の専門性に固執せず、全体視点で考えることで、時代遅れや思い込みを避け、デジタル時代の新たな価値を創造します。
[6]オープンな共創の原則
外部との共創を進めるためには、オープンマインドと自社の強みを活かし、柔軟な共創体制を整えることが重要です。
[7]利用者動機付けの原則
システム開発において利用者の協力を得るためには、理解と共感を高める明確なメッセージと良好なユーザーエクスペリエンスが必要です。
[8]戦略実行整合の原則
デジタル経営では、戦略と価値実現の整合を重視し、モニタリングと可視化を通じて動的に見直すことが重要です。
[9]学習と成長の原則
企業は成熟度を認識し、デジタル環境と人の成長を同時に図り、社員のエンゲージメントを高めることで成長を実現します。
[10]ファクトベースの原則
データ収集と可視化を重視し、デジタル技術を活用して正しい判断を行う体制が必要です。
デジタル経営推進プロセスガイドラインへの期待
当ガイドライン資料は、デジタル経営を推進する上で、様々なステイクホルダーに対するコミュニケーション・ツール、共通言語になることが期待されます。そうして相互の共通認識が図られることにより、仕事の質を一定水準に保つことも期待されます。
当ガイドライン資料によって提示されたノウハウを実務に適用し、企業経営に活かすことにより、企業の持続的な成長といった結果へと繋がることでしょう。
なお、先にも触れましたが、当ガイドライン資料(PDF版)は、無料でダウンロードして入手することが可能です。詳しくは以下のリンク先(ITCA)をご確認ください。
「新しいプロセスガイドライン『PGL4.0 (PDF版)』を無料公開いたします。」
https://www.itc.or.jp/news/pgl_v4.html
(2024/8/8 引用)
リンク先のページでも説明されていますが、ダウンロードには「ITC+」へのメンバー登録が必要になります。
「ITC+」は、セミナーやイベントなどへの申し込みに利用される仕組みです。一般(ITコーディネータ資格者以外)でも参加可能なセミナーやイベントも行われていますので、メンバー登録が役に立つこともあるでしょう。
この記事のまとめ
- デジタル社会における経営環境の変化に対応し、企業は持続的な成長を実現することを求められる
- デジタル経営は、戦略に基づいたデータとITの利活用による経営の変革により、企業の持続的な成長を導く経営手法
- 企業がデジタル経営を効果的に推進するための実行基準と判断基準を示したものが「デジタル経営推進プロセスガイドライン」