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  • 作業状況の見える化デモでIoT活用を実践

  • 作業状況の見える化デモでIoT活用を実践
  • 公開2017/10/30  更新2024/10/31

  • 業務におけるIoT活用例として、工場における製造作業の状況をセンサーやスマートフォンを活用して見える化するデモを実践しました。

記事内容

安価なIoTトライアルを「やってみた」

IoT(Internet of Things)について語る上では、実際に取り組んで実感する必要があると考えました。とは言いましても、いきなり工場などの現場を舞台にするのは難しいので、まずは仕組み作りに取り組みました。

「センサーデータを収集してデータを可視化する」ことを大きなテーマとして、3つの観点から取り組みました。それぞれのコラム記事でご紹介しています。

[1]センサーデータをクラウド上で可視化する仕組み作り

参考「安価な構成によるIoTデモを実践」

[2]センサーデータを活用して作業状況を可視化する仕組み作り

(ここ)「作業状況の見える化デモでIoT活用を実践」

[3]センサーデータをクラウド不使用で可視化する仕組み作り

参考「エッジでの可視化デモでIoT活用を実践」

ますは背景となる共通の情報をご説明しますが、既読の場合などは下のリンクをクリックすると個別の内容までジャンプします。
個別の内容に進む →

当サイトでは、IT導入を成功に導くためにトライアルを実施することの有効性を提言しました。

参考「IT導入にも「お試し」が重要」

その中で、一つの具体例として「安価なIoTトライアル構成」を挙げました。下図になりますが、こうした例に説得力を持たせ、絵に描いた餅に終わらせないために、実際に動作する仕組み作りに取り組みました。

安価なIoTトライアル構成の例
『安価なIoTトライアル構成の例』

センサーデータを活用して作業状況を可視化する仕組みの具体化

「センサーによって収集したデータを可視化する」と言いましても、IoTに取り組む目的はセンサー計測値そのものよりも、計測値の変化を基にして状況変化の結果を可視化することだと思います。

工場における製造作業の作業状況を例に取ると、センサーを活用して作業の開始と終了を自動判定して、開始時間や終了時間をデータとして収集することは作業実績の把握に役立ちます。

こうした考えから、今回はセンサーデータを「活用」することにフォーカスしたIoTデモをご紹介します。実際にデモが可能な環境としては、下図のような具体的構成となりました。

センサーデータを活用した作業状況可視化 IoTデモの構成図
『センサーデータを活用した作業状況可視化 IoTデモの構成図』

センサーには「SensorTag(センサータグ)」[1]、「IoT Smart Network Module」[2]、「音波距離センサー」[3]を、シングルボードコンピュータには「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」[4]を、クラウドサービスには「Bluemix(IBM Cloud:アイビーエム クラウド)」[5]を用意しました。他には、スマートフォンを作業報告のための入力ツールとして使用します。

この内、デモにおける業務作業と直接関係する部分について用途を補足します。

  • 「SensorTag」は、加速度の計測値変化により動作検知(稼働・停止)を行う
  • 「IoT Smart Network Module」は、照度の計測値変化により光検知(点灯・消灯)を行う
  • 「音波距離センサー」は、距離の計測値変化により物体の存在検知を行う
  • スマートフォンは、QRコード読込みによりデータ入力を行う

今回は、機器や仕組みについてこれ以上踏み込まず、「業務の中で活用されるIoT」にフォーカスしてご説明を進めたいと思います。

「業務の中で活用されるIoT」のデモ内容について

デモの内容を大まかに整理すると、「具体的な作業をイメージし、それらの作業を対象として、データによって作業状況を可視化する」といった内容になります。デモの全体的な流れを下図でご説明します。

製造作業を想定したデモ操作の流れ
『製造作業を想定したデモ操作の流れ』

上段の≪作業イメージ≫は、具体的な製造作業を想定しており、工程を流れる指示書に従って各工程で作業を行う様子を表しています。

下段の≪デモ操作≫は、想定した作業イメージに対してIoTを活用した場合の操作の様子を表しています。ポイントは次の通りです。

  • 各工程の作業開始前に「作業報告」として指示書とデータを紐づけるための入力操作を行う
  • 各工程における作業に対しては、センサーによって作業の開始と終了を自動判定する
  • 但し、検査工程に関しては「作業報告」の入力を以て作業の開始または終了とする

これだけでは説明が不十分ですので、もう少し詳しい情報として、各工程における作業のどのような点に着目するのか(作業環境)と、それらに対してどのようにしてデータ収集をするのか(作業把握)の要件を表に整理します。

作業環境と作業把握の要件表
『作業環境と作業把握の要件表』

「作業報告」入力作業について、ちょっと分かり辛いかもしれませんので、図によって補足します。

スマートフォンによる作業報告の入力作業
『スマートフォンによる作業報告の入力作業』

クラウド上で動作する作業報告(開始前用)の画面をスマートフォンのWebブラウザで表示します。そして、用意されたQRコードを読込むことによって情報入力を行います。文字入力の必要はありません。「SUBMIT」ボタンを押すと項目を確定して送信します。なお、検査工程向けに作業報告(終了後用)の専用画面を用意しています。

こうした要件によって収集したデータを用いて、工程毎の作業状況を管理します。クラウドサービスを活用し、作業状況をリアルタイムに表示(モニタリング)する画面にWebブラウザからアクセスします。

工程作業状況の可視化画面について

Webブラウザで表示する可視化画面を含むアプリケーションは、クラウド上で「Node-RED(ノード・レッド)」[6]というオープン・ソースのツール(ソフトウェア)を利用して作成しています。因みに、先程ご紹介した作業報告(開始前・終了後)の画面も「Node-RED」で作成しています。可視化画面は「作業モニター」と題しており下図となります。

工程作業状況の可視化
『工程作業状況の可視化』

「作業モニター」画面は、各工程(「切削」「塗装」「組立」「検査」)を列として配して、状況を一覧でモニタリングする画面になります。各工程において、どの作業指示を作業中なのか、またはどの作業指示が完了しているのか(現在は作業無しの状態か)が分かります。

なお、「作業モニター」画面の全体を表示しますと、画面の表示内容が見辛いかもしれませんので、一つの列(組立工程)を抜き出して拡大した図を基にして、表示された情報についてご説明します。

作業モニター画面から一列分の表示を抜粋
『作業モニター画面から一列分の表示を抜粋』

「状態」項目
工程作業の状況を3パターンのステータス表示で伝えます。

  1. 「未着手」:作業員が作業報告(開始前用)を入力してから、作業に取り掛かるまでのステータス(但し、検査工程ではこのステータスは表示されない)
  2. 「着手」:作業員が作業を開始したことを示すステータスであり、作業中であることを目立たせるために画面では【着手】と表示される(検査工程以外ではセンサーによる自動判定で表示され、検査工程では作業報告(開始前用)の入力時に表示される)
  3. 「完了」:作業員が作業を終了したことを示すステータス(検査工程以外ではセンサーによる自動判定で表示され、検査工程では作業報告(終了後用)の入力時に表示される)

「指示書」項目
生産指示書に記載された工程に対する作業指示の情報(コード)であり、作業報告(開始前用)で入力された情報です。

「製品名」項目
作業報告(開始前用)で入力された作業指示(コード)に紐づいた情報です。詳しくは省略しますが、生産指示書を作成するためのデータを参照して取得します。

「作業者」項目
作業を担当する作業者の情報であり、作業報告(開始前用)で入力された情報です。

「開始」項目
センサーによって、作業の開始を自動判定された日時情報です。但し、検査工程においては作業報告(開始前用)を入力した日時となります。

「終了」項目
センサーによって、作業の終了を自動判定された日時情報です。但し、検査工程においては作業報告(終了後用)を入力した日時となります。

「業務の中で活用されるIoT」デモからの提言

今回は「業務の中で活用されるIoT」をテーマとして、工場における製造作業の作業状況を可視化するデモをご紹介しました。こうした具体的な例をご覧いただくことで、IoTを身近に感じ、自社の環境に照らして具体的に考えるきっかけとなれば幸いです。

とは言え、実際の製造作業はとても複雑であり、このような単純なモデルでは片付かないであろうことは確かです。それでも、無意味や無理と決めつけないで、できる部分から着手して段階的に実現して行くことに意義があると考えます。「やってみる」ことで課題や次の展望が見えてくるものです。

例えば、今回のデモを「やってみて」課題を感じました。スマートフォンで複数のQRコードを読込む操作をしてみましたが、操作が煩わしいと感じました。代わりにタブレット端末とバーコードリーダーを使用した方が、より実用的でストレスのない操作になるだろうと感じました。

また、展望としては、指示書(紙)の情報を読み込むのではなく、タブレット端末などに表示された指示情報を作業員が確認すると同時に作業報告の入力も行うといった、ペーパーレスな業務フローへと発展させられると感じました。

これらは一例に過ぎませんが、「やってみる」ことから得られるものは多いはずです。但し、単にIoTを「やってみる」ことが目的になってしまっては良くないです。

そもそも、IoTに取り組む動機の多くは「業務効率化の実現」にあると思われます。こうした根本を見失わず、業務フローを改善するにあたりIoTが貢献できそうな対象を見定めてから取り組まれることをお勧めします。

IoTの導入は、業務のデジタル化を後押しするでしょう。デジタル化が進めば、業務効率化の実現へと繋がって行くでしょう。そうした流れは、生産性の向上といった成果に結実することでしょう。

この記事のまとめ

  • センサーデータの可視化から活用へとステップアップした
  • 工場における製造作業の作業状況を可視化するデモを構築した
  • 業務効率化を実現する観点からIoTに取り組むべき