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  • 工場における人と機械の可視化IoTデモを展示会出展

  • 工場における人と機械の可視化IoTデモを展示会出展
  • 公開2019/02/15  更新2022/06/23

  • 工場における人の作業と機械の稼働をカードリーダーと加速度センサーで検知して画面表示と音で可視化するIoTデモを展示会出展しました。

記事内容

活動に参加しているNPO法人[1]が毎年出展している展示会[2]に、今回もIoT技術をベースにした動態デモを展示しました。前回の展示とは趣を変えて、今回は工場の生産作業をモデルとした、より実用的な展示を行いました。

内容が盛りだくさんとなりましたので、今回のコラム記事では技術面には余り踏み込まずデモの目的を主体にご紹介します。それでも情報量が多くなると目的が分かり辛くなると思いますので、先に我々の活動コンセプトを明確にします。

  • 安価で簡単に手に入る物品を用いて自ら構築するIoTのモデルを示す
  • まずは少ない投資で着手して経験を積み効果を実感してからステップアップ

こういった考えを基にして今回の展示に繋がっています。今回は具体例として、データ出力要素のないヴィンテージな機械に対しても市販のセンサーを設置することでデータ管理の対象にできることを示しました。こうした背景を踏まえて読んで頂くことで少しでも内容が伝わり易くなれば幸いです。

デモのモデルは前回のコラム記事でご紹介した工場の生産作業です。複数の加工機械に対処しなければならない作業員を支援して、機械の停止時間を短縮することによって生産効率を向上させる目的があります。加えて今回のデモでは、人(作業員)の作業日報の入力負荷を軽減する目的から、カードリーダーの活用を提案しています。

デモにおいては、人の作業と機械の稼働状態をリアルタイムに表示するモニター画面を用意することに加えて、データをCSVファイルで出力することで稼働実績データとしてデータ分析や経営管理に役立てる提案も行いました。それでは、どのような展示だったのか構成をご説明します。

工場における人と機械の可視化デモの構成図
『工場における人と機械の可視化デモの構成図』

上図を補足します。純粋にデモの為の構成(赤線)と工場の現場環境を模擬する為の構成(青線)に分かれます。

  • ① Raspberry Pi(ラズベリーパイ)[3]です。デモ用のアプリケーションが動作します。センサーデータの読み込み、判定、画面表示、データのファイル出力を実行します。
    また、リアルタイムモニター画面である『状態監視画面』は、①のHDMI出力からプロジェクターに接続して表示しています。
    なお、①が置かれた白い箱の中には別のRaspberry Piが動作しており、モーター駆動模型の動作を制御しています。
  • ② カードリーダー[4]です。作業員に紐づいたカードを置くことにより、作業員の作業時間を把握します。Raspberry PiのUSBポートに接続しています。
  • ③ フェリカ・カード[5]×3です(1枚は写真外)。3名の作業員向けに用意します。
  • ④ 無線モジュール親機[6]です。Raspberry PiのUSBポートに挿して子機から送信されるデータを受信します。
  • ⑤ 加速度センサー搭載無線モジュール子機[7]×3です。モーター駆動模型の振動を計測してデータ送信します。
  • ⑥ モーター駆動模型×3です。ピストン運動することで工場の加工機械を模擬します。
  • ⑦ 押しボタンスイッチ×3です。モーター駆動模型の動作開始を指示します。

これらの構成において筆者が担当したのは、①のRaspberry Pi上で動作するアプリケーションの製作です。一方で今回の展示ではモデルとした工場での作業を模擬する仕組み作りにも力が入っていました。加工機械を模擬するモーター駆動模型を独自製作し、それらの模型の動作をRaspberry Piで制御します。実際の作業と対比してみましょう。

実際の作業では
「作業員が加工機械に加工部材をセットしてボタン操作して加工開始した後、加工終了すると機械が自動停止する」

今回のデモでは
「ボタンスイッチ操作で模型が動作を開始した後、Raspberry Piによるタイマー制御で模型が自動停止する」

こうして生産作業が模擬されたことで監視画面による実用的な可視化デモが成立しました。それでは、生産作業の状態をリアルタイムに可視化する画面をご紹介します。

状態監視画面
『状態監視画面』

画面構成としては、左側に作業員(カードリーダー)の状態を表示し、他に3台の機械(模型)の状態を表示します。上図では各作業前の表示と各作業中の表示を例示しています。少々補足してご説明します。

  • 「作業員カード」の表示遷移は、カードリーダーにカードが置かれていないと「作業待ち」となり、カードが置かれると「作業中」に変わって、作業員の氏名と開始時刻が表示されます。その後カードが置かれている間は作業時間(分)が経過表示され、カードが取り上げられると終了時刻が表示されます。
  • 機械3台の表示遷移は同一になります。機械(模型)が動作する前は「停止中」ですが、動作開始すると「稼働中」に変わると共に開始時刻が表示されて、以降は経過時間(分)も表示されます。その後機械(模型)が停止すると「作業待ち」に変わると共に終了時刻が表示されて、以降は停止後経過時間(分)が表示されます。
  • 機械(模型)の停止時に表示が「作業待ち」となるのはモデルとした生産作業の影響であり、作業員に対して対応するように促しています。そして作業員が機械(模型)を動作開始させれば「稼働中」へと遷移します。機械の停止時間を短縮する為の仕組みになります。その為に「作業待ち」の状態が1分続くと表示が「作業滞留中」へと変わり、より強い警告を行います。なお「作業滞留中」のまま放置すると、設定回数分の警告を行った後には「停止中」の表示に戻ります。
  • 機械(模型)の状態表示に関しては、設置したセンサー(無線子機)の状態も表示しており、無線通信と電池の状態を表示します。
  • 今回のデモにおいては「音」を有効活用することを意識しています。カードをカードリーダー上に置いたり、機械(模型)が動作開始/停止するといったイベントでは個別のチャイムが鳴ります。音を聞いただけでも何が起きたか判別できるようにしました。更にはカードリーダー上にカードが置かれた状態では、BGMがループ再生することで作業員に正常状態を伝えます。作業中にBGMが止まっていたらカード置き忘れを意味します。機械(模型)の「作業滞留中」時はチャイムではなく警告音によって作業員の注意を引くようにしています。
  • デモは画面表示だけでなく実績データの収集も行っています。有効な実績データとする為には、作業員にはカードをカードリーダー上に置いた状態で機械(模型)操作を行って欲しいので状態の整合性も監視する必要があります。不整合な状態では「カードが必要」といった警告表示とブザー音によって作業員に対応を促します。
  • 他には画面左下にQRコードを配していますが、当画面にアクセスする為の情報(URL)です。展示会場では独自Wi-FiでLANを構成しており、Wi-Fi接続した上でQRコード読み込みをすればスマートフォンでも当画面を表示できるようにしています。

以上がリアルタイム可視化デモの内容になります。今回モデルとさせて頂いた企業様のリアルタイム・モニター画面へのニーズを起点としつつ、展示会向けに改めて『状態監視画面』を製作しました。展示会を意識して動きの派手な画面になってしまったかもしれません。それはともかく、このような画面へのニーズは一般的には決して多くないかもしれません。

それよりも収集した実績データを如何に活用するかが重要とされるでしょう。展示会においても収集した実績データ(CSVファイル)の活用例を提案しました。作業員と機械(模型)の稼働状態をタイムチャートを作成することによって可視化しました。

展示会では他のNPOメンバーが製作したExcelマクロを用いてタイムチャートを作成していました。しかし、当コラム記事においては別の方法でタイムチャートを作成する事例をご紹介します。Power BI(Desktop)[8]を用いて作成したタイムチャートが下図となります。

稼働実績表
『稼働実績表』

Excelマクロの知識を持たなくても設定作業のみでこのようなグラフが作成できます。そしてグラフには次のようなポイントが如実に表れています。

  • 作業員の誰が何時から何時まで作業していたのか
  • その作業員がどの機械をどのように稼働させていたのか

こうして可視化されることで問題点に気付き易くなり、作業員に具体的なヒアリングを実施して対処を進めることが可能となるので、改善への早道になることが期待されます。また、実績データは原価計算や経営判断の材料としても役立つでしょう。

こうして今回の展示会では、作業員や機械の動きをデータ化して有効活用する事例をご紹介しました。来場された方の反応は様々でした。「ウチもこのような状況」というご意見を頂いた一方で「ウチにはヴィンテージな機械なんか無い」や「モニター画面なんか見ていられない」といったご意見も頂きました。環境が異なればニーズも大きく異なることを再認識しました。

ただ、展示内容に対して肯定的な方でも否定的な方でも、多くの方から共通して聞かれた見解があって強く印象に残っているので要約してみます。

自分で経験しないと身に付かないので、とにかく『やってみる』ことが重要であり、その手段として安価で簡単に手に入る物品を用いていれば、上手く行かなくても割り切って早く次を試すことができる

当コラム記事の冒頭で述べさせて頂いた我々の活動コンセプトと同じ方向性に対して、多くの方から賛同を得られたと感じました。必要とされる支援をご提供できるように、こういった活動を一層推進しようと考えるに至った展示会でした。

補足(2019/4/10追記)

『状態監視画面』の動作を実際に見て頂けるように動画を用意しました。こちらの記事をご覧ください。展示会後の情報もご紹介しています。

この記事のまとめ

  • IoT手法による実用的な可視化デモを展示会に出展した
  • 人と機械の状態をリアルタイムモニターとデータ分析によって可視化するデモを展示した
  • まずは手軽に「やってみる」取り組みに対して賛同が得られた