記事内容
前回のコラム記事では、展示会に出展したIoTデモについてご紹介しました。その後、関係するNPO法人[1]から「実用的なツールを作れないか」と依頼を頂きまして、IoT導入検討のPoC[2]を支援する為のツールを考案しました。
内容は「センサーデータを収集してファイル出力するツール」です。製作に入る前に、NPO法人の活動内容を踏まえて「何のため」の「どんなもの」かを定義しました。
まずは「ツールの目的」として
「中小企業の経営者にデータ管理の有効性を実感して頂く目的で行うデータ分析に用いるデータソースを生成する」
と定義し、製作にあたって次のように更に具体的にしました。
- 生産設備の稼働状況や生産作業の行動をマルチセンサーを通じて数値データ化し、CSVファイルとして収集する
- データ分析に注力する為、データ収集に掛かる労力から解放する
そして「ツールの要件」として
「一般のPCユーザが利用可能な操作性と場所を選ばない独立性を有しなければならない」
と定義し、製作にあたって次のように更に具体的にしました。
- Windows PCを通常使用できればツール利用可能とする
- Raspberry Piの電源が取れれば場所を選ばず利用可能とする(機器の動作仕様範囲内)
- ネットワーク環境に依存しない
- 人手を介さず長時間のデータ収集を可能とする
- 安価に手に入るモノで構成する
これらが当ツールのコンセプトになります。続いて、ツールの利用イメージを概念図として下図でご説明します。
ツール自体の構成は、「マルチセンサー」[3]と「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」[4]となり、Raspberry Pi上では「Node-RED(ノード・レッド)」[5]で製作されたアプリケーションが稼働しています。マルチセンサーとRaspberry Piの間はBLE[6]で通信を行います。
ツールを操作する際は、PCとRaspberry PiをWi-Fi接続するかLANケーブルで直接接続するかした上で、PCのWebブラウザからツール画面にアクセスして操作します。ツール画面は「操作画面」と「モニター画面」を用意しています。
ツールの「操作画面」をご紹介します。処理開始/停止の操作や各種設定を行うインターフェース画面になります。
ツールの「モニター画面」をご紹介します。処理の状態やセンサー数値をリアルタイムに表示する画面になります。
ツールのイメージを分かって頂けたと思いますので、標準的なツール利用手順をご説明します。
- 計測対象付近の電源が取れる場所にRaspberry Piを設置して通電する
- 「操作画面」からまずは、「CSV出力無し」(OFF)で「計測開始」し、「モニター画面」でセンサー数値を確認しながらセンサーを計測対象に設置する(例、光を正しく受けているか等)
- 「操作画面」から一旦「計測停止」し、「CSV出力有り」(ON)に切り替えた上で改めて「計測開始」する(データ収集中はPC不要で放置可能)
- 目的のデータ収集が済んだら、「操作画面」から「計測停止」し、必要に応じてRaspberry Piをシャットダウンして撤収する等を行う
- CSVファイルの回収にあたっては、ファイル(ディレクトリ)共有されており、PC上のエクスプローラーからアクセス可能なので、PC側にファイルコピーする
- 回収したCSVファイルをデータソースとして、データ分析ツールを用いてデータ分析を行う
なお、計測現場にPCを持ち込まない場合は、スマートフォンでツール操作を行うことも可能です(Androidで確認)。スマートフォンのテザリング機能(Wi-Fiアクセスポイント)により、Raspberry Piを接続し、スマートフォンのWebブラウザからツール画面にアクセスして操作します。この場合は、Raspberry Piを持ち帰った上でPCに接続してCSVファイルを回収します。
当ツールからのアウトプットはCSVファイルとなりますが、データ分析に役立たなくては意味がありません。参考として、当ツールで収集したCSVファイルを基にグラフ化した例をご紹介します。
上図は、Power BI製品[7]のPower BI Desktopで作成したレポートをPower BIダッシュボードで整形したものですが、この辺りの話は今回の趣旨から外れるので詳しくは割愛します。
一般的なデータ分析ツールのデータソースとして使えることを見て頂きました。
データ分析ツールの使用例としてグラフ作成を行いましたが、収集したデータをグラフ化するだけではデータ分析とは言えません。分析の目的や目標がなければ価値のある分析結果を導けません。また、収集したデータの中から何らかの意味を見出すのはあくまで人間の役割です。その為にはデータ収集の際の意図や周辺状況を考慮することも必要になります。
これらの問題提起に対して、当ツールを利用するメリットを整理してみましょう。
- データ収集に手間が掛からなくなる分、周辺状況の観察により注力できる
- データ分析における仮説の構築と検証にあたり、データ収集の範囲から色々と試行錯誤できるようになることで仮説の検証を短いスパンで繰り返せるようになり、より価値のある分析結果を導ける
要するに、データ収集を容易にする為のツールとしてだけではなく、データ分析を補助する存在として更に効果を発揮します。
冒頭に当ツールの目的を述べましたが、それはツール自体の限定的な目的でした。更に視野を広げて、当ツールを用いたソリューション本来の目的を述べるなら、次のようになると考えます。
「収集したCSVファイルをデータ分析ツールのデータソースとして用い、多角的なデータ分析を展開し、その分析結果を基にカイゼンや新たなソリューションの提案を中小企業の経営者に向けて提供する」
このようにツール製作に至る動機は、データ分析の視点から企業支援に寄与することにありました。今回の記事はデータ収集ツールの紹介を主題としましたが、ご覧になる方からすると、データ分析への取り組みを中心とした記事内容であった方が興味を持って頂けたかもしれません。それは改めて別の記事でご紹介したいと思います。
このような「道具」を用いた、独自のアプローチによるデータ分析の事例を今後ご紹介しますが、まずは先に「道具」の説明をさせて頂きました。
補足(2019/5/7追記)
ツールを更にブラッシュアップして活用しております。こちらをご覧ください。
この記事のまとめ
- センサーデータを収集してファイル出力するツールを製作した
- データ分析を補助するモノであり誰でも使えるツールである
- 収集したデータはデータ分析ツールのデータソースとして使える
- データ収集の労力軽減だけでなくデータ分析の作業効率を高めるツールである